会長挨拶
日本消費者教育学会会長 大藪 千穂(東海国立大学機構岐阜大学副学長/教授)
2022年10月から第14期の会長に選出されました。2025年9月末までの3年間、どうぞよろしくお願いします。
本学会は1981年に今井光映先生によって創立されました。現在も会報の最初のページに学会設立趣意書を掲載していますが、そこには、「・・・・人は誰でも生涯にわたって消費者であります。したがって、消費者教育は人間の発達の段階に応じて、生涯にわたってシステム的に、また家庭・学校・社会・産業等その担い手の間の理解と協力と連携のもとにシステム的に、行われる必要があります。1975年にフォード大統領が「消費者教育を受ける権利」を消費者の第5番目の権利として掲げたのも、そのためであります。」と記されています。
我が国の消費者教育は、アメリカからかなり遅れましたが、学校教育では1989年、学習指導要領の改訂時に家庭科、社会科に消費者教育が組み入れられ発展してきました。一方、消費生活センター等の行政においても啓発的な形で進められていました。21世紀になり、消費者を取り巻く環境が変化すると、消費者教育も新たなステージを迎えることとなります。2004年に消費者保護基本法が消費者基本法に改正され、消費者教育は「消費者の権利」の一つに掲げられました。その後、2009年に消費者庁が設置され、2012年には、学会の前会長である西村隆男先生をはじめ、多くの学会員のご尽力により、「消費者教育推進法」が成立・施行されました。その第2条では、消費者教育を「消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育及びこれに準ずる啓発活動」であり、「消費者が主体的に消費者市民社会に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む」と、消費者教育と消費者市民社会の形成について明示しました。消費者市民社会とは、消費者が自らの行動が社会や環境に及ぼす影響を自覚し、公正で持続可能な社会の形成のために積極的に参画する社会のことをさします。この「消費者教育推進法」の制定によって、学校教育や行政・企業における消費者教育が、持続可能な社会形成という同じ目標に向かって進み始めたと言えます。
近年では、地球温暖化による様々な自然災害や戦争、物価の高騰など、我々を取り巻く環境は厳しさを増しています。そのような中、2015年9月に国連が発表したSDGsへ関心が高まり、学校だけでなく、行政・企業、家庭においても、持続可能な消費生活の実現が喫緊の課題となり、「消費者教育推進法」の視点が活かされています。
このような多くの課題にとりくみ、消費者教育の更なる発展のために、会員の総力を尽くして、研究・教育活動に邁進していきたいと思います。本学会は、消費者が大学・学校関係者、行政関係者、消費者団体等関係者、企業関係者など、消費生活に関わる多様な立場の方々から構成されており、北海道・東北支部、関東支部、中部支部、関西支部、中国・四国支部、九州支部の6つの支部があります。各支部では、研究発表会や勉強会など、地域の特性に応じた活動が積極的に展開されています。
それぞれの活動や研究成果は、毎年10月に開催される年次大会や、学会誌『消費者教育』において発表されています。また維持会員の皆様との情報交換を行う消費者教育研究交流会や、若者への啓発活動の一環として消費者教育学生セミナーも毎年開催され、消費者教育の理念の普及と現代的課題の追究に努めています。ご関心のある皆様には、是非ご入会いただき、学会員として、消費者教育への理解を一層深め、教育活動や実践活動の普及・推進に力を発揮していただきたくお願いいたします。